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ニホンウナギ:汽水域での行動の特徴とは?

掲載日 2019.02.12
東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所 助教 三宅陽一

私たち日本人に最も馴染み深い魚の一種であるニホンウナギ(Anguilla japonica)は、外洋で産まれて河川や湖沼で成長し、再び産卵のために外洋まで回遊してその一生を終える。

沿岸の河川や湖沼はニホンウナギが一生の中で最も長い期間を過ごす場所であると同時に、人間の生活圏にも近い。特に汽水域(海水と淡水が混ざる水域)は、人口の集中から人間活動の影響を強く受ける。そのため、本種資源を保全するためには、汽水域における黄ウナギの行動特性を理解することが重要であるが、意外なことに現在までに研究例は多くない。

ここでは、発信機と受信機を利用してニホンウナギを追跡し、汽水域におけるウナギの行動について調査した最新の研究を紹介する。調査の結果、ウナギの活動が光と密接に関係していることや、汽水域におけるウナギの行動範囲が淡水域のそれよりも広いことなどが示された。

ニホンウナギは絶滅の危惧に瀕している

ニホンウナギは、古くは縄文時代から我が国の重要な食資源として、和歌や絵画の題材として、時には信仰の対象として、多様な生態系サービスを供給してきた。生態系サービスとは、生態系の働きのうち人間社会にとっての便益につながるものを指す。

しかし、その漁獲量は1970年代以降激減し、2013年には環境省のレッドリストに、2014年には国際自然保護連合のレッドリストにそれぞれ絶滅危惧種として掲載されるに至った。そのため現在、ニホンウナギ資源の保全が緊急の課題となっている。

ウナギは一生のうち最も長い期間を河川や湖沼で過ごす

ニホンウナギは、産卵場を北太平洋のマリアナ諸島西方海域に持ち、東アジア沿岸の河川や湖沼で成長する「降河性回遊魚」である。降河性回遊魚とは、河川や湖沼で育った後に海へと下って産卵する魚のことである。

外洋で孵化したニホンウナギの仔魚はレプトセファルスと呼ばれ、北赤道海流と黒潮によって沿岸域へ運ばれる。黒潮域にて稚魚であるシラスウナギに変態したあと、日本、中国、韓国、台湾など東アジア一帯の分布域へと接岸する。

その後、河川に進入したシラスウナギは、成長期にあたる黄ウナギとして、生活史の最も長い時間をかけて沿岸の内湾や河川で定住生活を行う。約10年前後を黄ウナギとして過ごしたのち、銀ウナギ(成熟開始個体)に変態して河川を下る(降河回遊)。そして海洋での回遊を開始し、外洋の産卵場に再び達してその一生を終える。

ウナギを保全するためには

降河性回遊魚であるウナギに対して有効な保全策を実施することができるのは沿岸生活期に限られる。人間の生活圏に近い沿岸で過ごす黄ウナギ期は人間活動の影響を強く受けるものと考えられ、実際に、沿岸における人為的な環境改変は本種資源の減少の一因であると指摘されている。その中でも特に汽水域は、人口の集中から人間活動の影響を強く受けることに加えて、一般に生物の生産性が高く、淡水域と比べて多くのウナギが生息することが知られている。そのため、本種資源を保全するためには、汽水域における黄ウナギの行動特性を理解することが不可欠である。

超音波発信機で汽水域でのウナギの行動を調べる

私たちは、超音波バイオテレメトリーという方法を利用して、島根県出雲市の汽水湖である神西湖でニホンウナギの黄ウナギを追跡し、それらの行動を詳細に調べた。超音波バイオテレメトリーとは、超音波を発する発信機(図1)を生物に装着し、受信機(図2)でその信号を受信することによって移動する生物の位置情報を得る調査手法である。

図1 発信機
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図2 受信機
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今回の調査では、神西湖のおおよそ半分のエリアを調査対象とし、そこに受信機を設置した(図3)。このエリア内で捕獲した黄ウナギに麻酔をかけた後、発信機を装着して放流した(図4)。発信機を装着したウナギが各受信機の受信範囲内に現れ、得られたデータを解析することで、「どのウナギがいつどこにいたか」といった位置情報を知ることができる。

図3 受信機設置後の様子
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図4 腹腔内に発信機を装着したニホンウナギ
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黄ウナギは、2017年8月上旬に放流し、同年11月上旬までの3か月間のデータを取得した。

黄ウナギの行動は光と密接な関係がある

その結果、汽水域における黄ウナギは夜行性であり、主に夜間に活動しているものと推察された。一方で、僅かながら昼間にも黄ウナギが活動している日も認められた。そのため、調査範囲内にあらかじめ設置した機械で光の変化を測り、昼間に活動が見られた日と見られなかった日で比較したところ、光の強さは昼間に活動が見られた日の方が弱かった。すなわち、黄ウナギは通常よりも暗い日(曇りや雨の日)には昼間にも活動しているものと推察された。また、黄ウナギが活動する確率および活動量は光が弱くなるとともに上昇した。

以上より、黄ウナギの活動は光と密接な関係があることが確認され、黄ウナギは光の変化に敏感に反応している可能性が示唆された。

黄ウナギの行動範囲

黄ウナギの行動範囲は湖岸から沖合に向かって広がっている一方で、行動の中心エリアは湖岸付近に集中した。本湖の黄ウナギは湖岸から数十mの礫質のエリアに生息するヤマトシジミを餌として主に利用していることが事前の胃内容物調査の結果から分かっている。そのため、この餌を利用するために黄ウナギは湖岸付近を分布の中心としているのかもしれない。また、本湖における黄ウナギの行動範囲は、利根川水系淡水域で報告されている値と比較して広かった。

汽水域におけるウナギの保全に向けて

今回の調査により、黄ウナギの活動は光と密接な関係があることが確認され、僅かな光の違いで活動が変化する可能性が示唆された。近年、北半球では人工光による生態系への悪影響が懸念されており、活動が光と密接に関係するニホンウナギにおいては光害の影響を受けやすいかもしれない。今後、飼育実験により、活動が生じる光の閾値を調査することで、本種の生態に配慮した人工光の設置方法等の理解が進むものと考えられる。

加えて、今後、淡水域と汽水域における黄ウナギの行動範囲が異なる理由を明らかにするために、両水域における微小生息域の量や多様性、餌生物等の分布と黄ウナギの行動範囲との関係について調査することが重要であり、そのような研究の積み重ねが、ニホンウナギ資源の保全への第一歩であるだろう。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「ニホンウナギの保全に向けた汽水域における黄ウナギの行動モニタリング」(2017年度)の活動などをもとに執筆しました。

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