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魚は潮流発電のブレードに衝突する?

掲載日 2019.02.07
東京大学生産技術研究所 教授 北澤大輔
            助教 吉田毅郎

最近話題の再生可能エネルギー。よく知られているエネルギー源は地熱、風力、水力や太陽光です。このように再生可能エネルギーは化石燃料に頼らない、持続性のあるエネルギーのことを指しています。

最近、世界では、海洋の再生可能エネルギーの開発が進められています。海洋再生可能エネルギーを取り出す方式として、風力発電のようなブレードを海水中に設置して、流れがあたるとブレードが回転することによってエネルギーを取り出す潮流・海流発電、海水表面の波からエネルギーを取り出す波力発電、海の表層水と深層水の温度差からエネルギーを取り出す温度差発電などがあります。洋上風力発電については、すでに商業化の段階となっており、ヨーロッパを中心として重要なエネルギー供給源となっています。

しかし、発電装置を海洋に設置する場合は、まわりの住民や動物、生態系におよぼす影響を事前に調べておく必要があります。たとえば、装置の景観や装置から発生する音の影響といった項目が挙げられます。また、陸上、洋上を問わず、風力発電の場合は、鳥がブレードに衝突する「バードストライク」が懸念されています。実際に衝突した事例も報告されていますし、レーダーなどを用いて鳥の接近を感知した場合や、渡り鳥の来訪期間には風車を停止するなどして対応している例もあります。

では、洋上風力発電とエネルギーを取り出す方式が近い潮流発電や海流発電の場合はどうでしょうか?海水中で流れがあたるとブレードが回転しますが、魚や哺乳類、海鳥などが衝突する恐れはないのでしょうか?

世界でも注目される「フィッシュストライク」

魚がブレードに衝突する問題は、「バードストライク」になぞらえて、「フィッシュストライク」と呼ばれることがあり、世界でも関心の高い問題となっています。国際組織である国際海洋エネルギー機関の海洋エネルギー実施委員会にある環境影響評価をあつかう部会では、フィッシュストライクをはじめとした環境影響評価に関する世界各国の情報を集めてウェブ上で発信するとともに、2013年、2016年には環境影響評価の現状に関する報告書を作成しました。その中で、潮流・海流発電や波力発電においては、フィッシュストライクや水中音の発生による影響、流れ場や波浪場の変化、送電線の影響、魚礁効果や底生生物への影響などが主な影響として取り上げられましたが、フィッシュストライクは実際の観測事例や科学的な知見が少なく、不確実性の高い課題とされています。発電装置の設置場所によっては、魚だけでなく海生哺乳類や潜水性の海鳥、ウミガメなども対象となります。漁業が盛んな地域では、発電装置と漁業の協調という観点から魚類への影響が特に重要視されています。

実験で調べてみよう

図1 魚のブレードへの衝突の水槽実験の例
拡大図

フィッシュストライクの発生の有無については、これまでに様々な方法で調べられてきました。一つは、水槽の中に流れを発生させて、ブレードの小さな模型を設置し、試験魚を投入して魚の行動を観察する方法です。実際の海洋であれば、ブレードがいくつか並んでいたとしても、まわりに空間が広がっていますので魚は逃げることができますが、水槽実験では、ブレードの模型と水槽の壁とのギャップが小さいため、魚にとってはブレードに衝突しやすい状況と言えます。また、魚の最大の遊泳速度とブレードが回転するときの先端の速さとの関係を実際の海と水槽とで合わせた実験も行われました。ブレードの先端の速度は、設計上、流れの速さの3~5倍となります。魚は、他の魚に追いかけられるときや、障害物を避けるときなどに、一瞬ではありますが、1秒間に体長の何倍もの速度で泳ぐことができ、そのときの速度を最大遊泳速度としています。また、実験条件についても、流れの速さやブレードの回転速度、魚種など、条件を変えながら実験が行われました。ただし、これらの実験の結果、魚がブレードに衝突したり、怪我をしたりした事例はほとんどありませんでした。魚は体の側面にある側線でブレードが回転することによる圧力や流れの変化を感じ取ったり、視覚や聴覚でブレードの存在を把握したりしているようです。

実際の海で調べるためには?

さて、実験で魚がブレードにあまり衝突しないことが分かったとしても、実際の海で衝突が起こるかどうかはまだ分かりません。海で衝突の有無を調べるためには、水中用の光学ビデオカメラや音響ビデオカメラで魚の行動を観察する必要があります。ただし、実際に海で衝突の様子を観察するのはとても難しいことです。

潮流発電が設置される海域は、流れが速いので、ビデオカメラの設置が困難です。光学ビデオカメラの場合は、速い流れで濁りが発生すると視程が悪くなり、夜になると観察できなくなります。また、ブレードの直径は20~30mに達することがありますので、広範囲に撮影するため、魚眼ビデオカメラなど広角のビデオカメラを使用する必要があります。

図2 魚眼ビデオカメラによる観測の有効性を確認するための水槽実験
拡大図

一方、魚の種類の判別が難しくなりますが、「音響ビデオカメラ」なら夜間でも観察が可能です。音響ビデオカメラというのは、光の代わりに音を利用するものです。音波の反射を可視化して、光学ビデオカメラのように撮影するものです。つまり、音波を当てて魚を見るということです。実際に、音響ビデオカメラをブレードの上流側と下流側に1台ずつ設置して、ブレードまわりの魚の行動を調べた事例があります。魚の大きさによって、ブレードを避けたり、あるいはブレードに入ってきてブレード間をすり抜けていったりする様子などが観察されています。

現在まで、実際に魚がブレードに衝突した事例や、ブレードへの衝突などによって怪我をした魚が周辺海域で見つかった事例は報告されていません。しかしながら、観察されている事例が極めて限られているため、今後、潮流発電が設置されていく場合は、調査を進めていく必要があるでしょう。

合意形成に向けて

図3 海洋再生可能エネルギーの環境影響評価と合意形成に関する動向の勉強会の様子
拡大図

仮に、魚がブレードに衝突するかどうかが明らかになっても、事業を進めるかどうかを判断することは難しいです。たとえば、1尾でも衝突するようであれば生態系保護の観点から事業を進めないのか、あるいは多少の衝突があっても再生可能エネルギー普及の観点から開発を進めるべきなのかなど、関係者間で意見が異なることが予想されます。もちろん、水中音による影響など、他の環境影響評価項目や、社会的な状況も考慮する必要があります。

潮流発電の開発に関する合意を形成していくためには、開発の初期の段階から関係者を集めて、科学的知見をもとにして説明会やディスカッションを行うなど、ボトムアップ型の活動が必要とされています。


※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「潮流・海流発電普及に向けた環境影響評価手法の検討」(2017年度)の活動をもとに執筆しました。

海洋アライアンスからのお知らせ

海洋アライアンスでは「海洋の利用に関する合意形成手法の開発」というプロジェクトを実施しました。関心のある方は是非、ホームページをご覧ください。

Contents
研究者発の海の話
海の女性ネットワーク、Women for One Ocean:海洋の将来を考えるために
海と人との関わりを探究する授業作り
漁村の過疎化は海洋生態系の管理体制に影響を及ぼすか
離島漁業の振興に向けた海洋環境変動の評価 ー海水中に含まれる粒子状有機物起源の検討ー
セーリング選手の役に立つ気象海象予測システム
海のメダカで環境汚染を調べる
大槌ラバーズ(大槌を愛するひとたち)─ 大槌の児童・生徒と海洋研究を繋ぐ意識 ─
水中ロボットの測位の話
深海の温泉をめぐる貝の旅
急激な地球温暖化が海洋生態系へ及ぼす影響を化石DNAで復元する
海溝というもの
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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