研究者発の海の話研究者発の海の話

海の女性ネットワーク、Women for One Ocean:海洋の将来を考えるために

掲載日 2019.05.09
元 東京大学 海洋アライアンス特任教授 窪川かおる

海の仕事に女性は少ないと思われていたのは、昔の話です。今では、船員、海上保安官、造船会社、海洋科学者など様々な分野で、海と関わる女性が確実に増えています。そうは言っても男性の人数よりずっと少ないですが、仕事と家庭を両立させて、背中をピンと伸ばして生き生きと働く女性たちの姿は、素敵です。海の仕事に就く女性たちがもっと活躍できるように海の女性ネットワークができました。なぜネットワークが必要なのか、どういう活動をするのかをお話しします。

日本で海に関する仕事と言えば、漁業、造船業、水産・海洋科学者がまずあげられます。これらの業種に女性がどのくらいの割合でいるかを2015-2018年に取られた様々な統計調査からみると、漁業は13%、造船業のうちエンジニアは5%、水産研究者は10%です。海洋科学者は、理系や工学系の大学教員の女性比率がそもそも少なく、理系が14%、工学系が10%なので、これらの中に含まれる海洋科学や海洋工学の女性研究者数はずっと少なくなります。一方、海上保安庁は、2014年後半で女性海上保安官が約800名(6%)に増え、2019年にはマタニティ制服が出来るなど、積極的に女性採用を増やし、生活応援の制度も整備されつつあります。船会社は女性船長を増やし、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海探査艇「しんかい6500」では女性コパイロットが活躍しています。確実に女性が活躍できる海の職場は増えています。社会も応援しています。当事者である海で働く女性達も、自分達で働き易い職場作りを目指しています。女子高校生や女子大学生に海の魅力を伝える活動も、海の女性ネットワークを通じて実施していきます。

2019年3月で会員は70名となり、今も増え続けています。大学教員、研究者14名、研究所職員、大学生・大学院生10名、会社員6名など様々な職種の女性が会員です。毎月1回1時間だけインターネット会議を開催して、会の進め方や企画の相談をしています。冊子発行やホームページを使った発信、小学生を対象としたサイエンスクラブでの講義・実習を始めています。国連持続可能な目標(SDGs)のうちSDG14 (海の豊かさを守ろう)とSDG5(男女共同参画)の実現を目指した活動もこれから行っていきます。

冊子の内容は、女性ネットワークの活動紹介、エッセイ「海と私」、連載「海とはじめての女性」、連載「男女共同参画の今」です。今までに2冊を発行しました。「はじめての女性」は、世界周航を成し遂げたフランスのジャンヌ・バレです。植物学者の助手として男性の服を着て、乗船しました。1766年のことです。「男女共同参画の今」は、無意識のバイアスについて解説しています。たとえば大学教員の採用やオーケストラの楽団員の採用で、女性の名前が不利になることを実験で示した話など、私たちの身近に男女共に無意識のバイアスがあります。冊子はホームページに公開され、第3号以降も作成しますので、是非ご覧ください。

図1 冊子No.1
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図2 冊子No.2
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とくに女性が増える必要性があるのだろうか。男女共同参画なのだから、女性に拘るのは偏っているし、男性が多い職場のままでも問題はないのだから特別なアクションを起こさなくてもよいという考えもあります。では、どこに女性が増えるメリットがあるのでしょうか。正解を決めるのではなく、多様な考え方が尊重されること自体がメリットです。それでは漠然としているので、例をあげると、安全性の高い職場作り、柔軟で効率のよい仕事の進め方、単一性の組織・社会よりも幅広いリスクの察知・予知ができて適応力が高まること、次世代に多様な見方を示すことがメリットの一部としてあげられます。

一方、海洋関係の仕事に男性が多い理由は何でしょうか。理系分野と考えられたり、体力を必要とし危険を伴うと海の仕事を考えられていることがあります。しかし、これらの理由は女性だけの問題ではなく、男性にとっても問題ではないでしょうか。解決は簡単ではなくても、根気よく多くの情報を集め、解決策を見出していく必要があります。これを女性から始めることが、「海の女性ネットワーク」の出番です。イニシャティブで準備をしてから2018年に発足したばかりの会ですが、2019年4月5日には、スェーデンのマルメにある世界海事大学で開催された第3回WMU国際女性会議一海で働く女性たち一で海の女性ネットワーク(Women for One Ocean)の活動を発表しました。70カ国、370名以上が参加し、日本からは商船三井松下尚美さんと海の女性ネットワーク窪川が参加しました。女性達のパワフルな発表が続き、世界でもまだ女性の活躍を後押しするために、数多くのネットワークや活動があることを知りました。そうは言っても、女性船員だけの船を考えることは、男性船員だけの船もあるのだから当然、という話を聞くと、自由な発想の大きさに私たちはまだ追い着いていないと思いました。

海の女性ネットワークの英名は、国連持続可能な目標の海洋科学の10年に出てくるOne Ocean、科学的に海はひとつであるOne Ocean、男女共同参画を示すためのOne Oceanを意味しています。大きな名前ですが、それに負けない大きな夢をもって「海の女性ネットワーク」は活動していきます。

図3 「海の女性ネットワーク」ホームページ
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※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「海洋分野で活躍する女性のネットワーク構築のための調査研究 - 女性の力を海に生かすために -」(2017年度前期)の活動をもとに執筆しました。

Contents
研究者発の海の話
海の女性ネットワーク、Women for One Ocean:海洋の将来を考えるために
海と人との関わりを探究する授業作り
漁村の過疎化は海洋生態系の管理体制に影響を及ぼすか
離島漁業の振興に向けた海洋環境変動の評価 ー海水中に含まれる粒子状有機物起源の検討ー
セーリング選手の役に立つ気象海象予測システム
海のメダカで環境汚染を調べる
大槌ラバーズ(大槌を愛するひとたち)─ 大槌の児童・生徒と海洋研究を繋ぐ意識 ─
水中ロボットの測位の話
深海の温泉をめぐる貝の旅
急激な地球温暖化が海洋生態系へ及ぼす影響を化石DNAで復元する
海溝というもの
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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