研究者発の海の話研究者発の海の話

離島漁業の振興に向けた海洋環境変動の評価 ー海水中に含まれる粒子状有機物起源の検討ー

掲載日 2019.04.18
東京大学海洋アライアンス特任准教授 山本光夫

日本の沿岸域において海藻の群落(藻場)が衰退・消失する「磯焼け」の問題に対し、鉄を利用した藻場修復・造成技術の研究開発が行われ、それを基に長崎県対馬の海域で海洋環境の変化と藻場の分布に着目した研究が行われていることを、以前ご紹介しました(https://www.oa.u-tokyo.ac.jp /learnocean/researchers/cat/sabaku.html)。

その研究は、対馬においては藻場の減少・衰退が東部と西部で異なり、特に南西部で藻場の減少が著しいことから、森・川・海のつながりの観点ではなく、海流(対馬暖流)の影響を含めた海洋環境の変化が、藻場の減少に関係があるのではないかとの考えに基づいて行われました。具体的には、鉄や窒素、リンなどの栄養分の水質調査に加えて、水温・塩分・流れの速さといった海洋環境の変動を水産研究・教育機構および海洋研究開発機構(JAMSTEC)から提供されている計算システムを使って評価しました。その結果、大陸の長江から流れ込む水が、その海洋環境に大きく影響していることを示唆する結果が得られました。この成果を踏まえて、今度は海水中の粒子状の有機物(以下、粒状有機物)に着目して海洋環境変動の評価を試みたのが今回ご紹介する研究です。

海域環境調査:粒状有機物起源の検討

粒状有機物の炭素や窒素の「同位体比」について調べることで、たとえば今回の場合にはその有機物が陸域起源のものなのか、海洋起源のものなのかを推定することができます。海域に存在する有機物が陸域起源のものと示されれば、その海域は陸域の影響を強く受けていると理解することができます。

図1 調査(河川水のサンプリング)の様子

原子は、正電荷を帯びる原子核と、負電荷を帯びる電子から成り立ちますが、そのうち原子核は陽子と中性子からなります。同位体とは、元素の性質を決める陽子は同じであるものの、中性子の数が異なる原子のことを指し、放射性同位体とは異なり安定して存在するものを「安定同位体」といいます。ここでは炭素安定同位体比の結果について紹介しますが、炭素の安定同位体には、炭素12(陽子6個、中性子6個)と炭素13(陽子6、中性子7)があり、この同位体比(δ13C)を測定することで、対象とする海域が陸域と海洋のどちらの影響を強く受けるかを本研究では検討しました。

調査を行ったのは、これまでと同じ北東部海域と南西部海域(https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/learnocean/researchers/cat/sabaku.html)で、その海域のほか、付近の小河川の下流域と河口海域に測点を設けた。その結果、δ13Cの挙動(季節変動)に北東と南西海域で大きな差がみられ、粒状有機物の起源(陸域か海洋か)に違いがあることが示唆されました。
本研究によって、対馬における藻場分布の違いを考える上で重要な結果を得ることができたと考えています。

離島漁業の振興に向けて

図2 地元行政に対する研究成果説明の様子

今回の結果を含めてこれまで得られた成果について、過去の文献等も踏まえながら総合的な考察をさらに進めていく予定です。研究成果を学術論文としてまとめていくことはもちろんですが、対馬における藻場修復・造成の最適な手法の提案に向けて、地元行政・漁業関係者との連携を進めていきたいと思っています。最終的には、離島漁業の振興を考える上でのモデルケースとなることを目指したいと考えています。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「離島漁業の振興に向けた海洋環境変動と藻場分布の関係性評価」(2017年度前期)の活動をもとに執筆しました。

Contents
研究者発の海の話
海の女性ネットワーク、Women for One Ocean:海洋の将来を考えるために
海と人との関わりを探究する授業作り
漁村の過疎化は海洋生態系の管理体制に影響を及ぼすか
離島漁業の振興に向けた海洋環境変動の評価 ー海水中に含まれる粒子状有機物起源の検討ー
セーリング選手の役に立つ気象海象予測システム
海のメダカで環境汚染を調べる
大槌ラバーズ(大槌を愛するひとたち)─ 大槌の児童・生徒と海洋研究を繋ぐ意識 ─
水中ロボットの測位の話
深海の温泉をめぐる貝の旅
急激な地球温暖化が海洋生態系へ及ぼす影響を化石DNAで復元する
海溝というもの
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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